PBPツアー7日目

走り初めて気がついたのですが、昨日あんなに苦しめられた眠気が全くありません。
ま、あんだけ吐き続ければ眠くなる暇もないでしょうけれどね。
雨は益々強くなってきて体感温度もかなり下がってきました。
高速道路のアンダーパスには10人ほどの参加者が雨宿りしていました。
私はかまわず先行することにしました。
けれどこの強気はちょっと失敗だったかな、
この道雨宿りするところが全くないのです。
向かい風もだんだん強くなってきてかなりまずい感じです。
コントロールから50kmほど走った所でしょうか、久しぶりの町に入ります。
石畳の上りをダンシングで上っていると明かりのついたお店の前に自転車が数台止まっています。
好奇心でのぞいてみると、参加者がコーヒーを振舞われています。
覗き込んでいる私に気付いた店員さんは中に入るよう急かしますが、やっぱり例の香りがあって…
笑顔で躊躇していると店員さんがデミタスカップを手渡してくれました。
とってもいい香り、フランスでいただいた中で最高の香りのコーヒーでした。
「こんびやん?」と訪ねると店員さんは「ノン」といってカップを受け取り頬をなでてくれて
「アッレ! ナンタラカンタラ パッリィ!」と進行方向を指差しました。
お礼を言って指差す方に向かいます。こっちに行けばパリに着くんだ…ずぶぬれの中、何か始めて実感しました。


次のコントロールも直前にそこそこの上りがあり、
またオフィシャルの地図と町の入り方が違って町中をぐるぐる回される感じでちょっとあせります。
PC10モルターニュ(1084.5km)には午前5時に到着しました。


ここはスタートして最初の食事休憩所で往路では睡魔に襲われてめそめそしたところです。
泣き虫が帰ってきましたよ〜って、でもそのままではコントロールに入れそうもないので、
羊羹をかじってくちゃくちゃかみながらコントロールへ、
この作戦は大成功!全く例の香りが気にならないので食事もしちゃいましょう。
ここでのメニューはパンオショコラ×2、バナナ、コーラ、
ボトルの水は便所水を使いました。(当然羊羹入り)
食事は飲み込む直前に羊羹をかじると小倉や抹茶の後味になって気持ち悪さ全くなし、
物が食べられるってこんなに楽しい事なんですねぇ。
トイレの大も羊羹かじりながらの行為、かなりうさちゃん化が進んでしまっていて時間がかかりました。
結局40分近くの休憩を取ってしまいました。


夜も開け、再び走り始めるとまずは森の中の緩いアップダウンが続きます。
雨も相変わらず、舗装は平らですがかなり荒めで、修理してあるところの方が抵抗が少なくあえて選んで車輪を持っていきます。
手や膝には常にバイブレーションがかかっている感じです。
走り方は最初と一緒、
上り始めにシフトアップしてダンシング、下りもどんどんシフトアップして、平地で始めてシフトダウンのパターン、
前後には全く人影はありません。
20km以上民家のない道を走ります。


残りの羊羹は3本、卵饅頭は1個でこの辺はうまく使わないと、
最後のコントロールで羊羹一本使うので、この区間(74km)に使えるのは羊羹1本、卵饅頭1個だけ、
それでも水に小倉の香りがついたおかげでパワーバーをその羊羹水で流し込めるようになり、
補給の心配は全くなくなりました。


かなり長く下って並木道の交差点を過ぎると
ツールでよく見る畑の中をビミョウにカーブをしながら進むまっ平らな道に出ました。
この場に及んで少し眠気が出てきました。
しばらく進むと前方にフランス人の5人ほどの集団が見えます。
見通しがいいので一分差ぐらいありますがその姿は捉えることができます。
なかなか差が縮まりませんでしたが、10kmほどかけてやっと後に着きました。
「ぼんじゅ〜る」と最後尾の参加者に声をかけます。
すると最後尾の参加者が足を止めたと思ったらブレーキング!
そしてすかさずダンシングして集団に戻って行きます。
これって妨害されているの…
でも、明らかに速度は私のほうが速いので、今度は左から一気に追い越して先頭に出ます。
1kmほど先頭を引いたでしょうか、先頭を変わるように後者が左から前に出てきました。
と、思ったら突然斜行!肩をぶつけ前輪にはすりそうな勢いで前に入ってきます、さらにそこからブレーキング!!!、
他のやつらはダンシングで逃げ始めます。
その場ではかなり遅れましたが5kmほどかけて追いつき、
ゆっくり左側を抜きにかかると最後尾のやつがなんと私に向かってつばを吐きました。
温厚な私もこれには頭にきて、一気にアタック!!!
こんなやつら完全に無視とばかりに先頭を走ります。
前に出るそぶりを感じたら、シフトアップしてダンシング、絶対前は走らせない!
かなり風は吹いているけれどそれも関係なし!
加速するタイミングは前方から大型トラックが迫ってくるとき、
こいつの風圧は半端じゃないので、上手く私との間が空けばちぎれるはず、
街中のクランクもテールが流れることお構いなしに踏み続けます。
眠気なんて全くなし。はらわた煮えきってます。
次のPCまで10kmを切ったところで後方確認、やつらの姿はありませんでした。


またまたぐるぐる町の中を回ってPCに向かいます。
最終PC11、デュルー(11158.5km)到着は午前8時40分でした。


またしても羊羹をかみながらコントロールへ向かいます。
最後の食事はタルトタタンショーソンオポム(似たような物!)とコーラ、
食事が終わりそろそろ出発しようとすると、
先ほどの連中が到着です。
唾を吐いた奴がコントロールチェックを済ますのを見計らって前に立ちはだかります。
少し背伸び(かっこ悪〜)をしてメンチ切りました。
(ボクシングのゴング前によくやるあれです、奴ら鼻高〜)
もし奴が目をそらさなければ私の走り方に何か非があったのでしょう、
暗黙のルールを私が破っているのなら改めなければなりません。
しかし、奴が目をそらすのならば、あれは単なる嫌がらせだったと判断しようと思いました。
奴は全く目を合せませんでした。そればかりか顔をそらしました。
またの間に入れた腿で急所を軽く当てると腰を引いて後ずさりしてしまいました。
残りの連中をにらみつけると目も合せず、その場を立ち去ろうとしたので、
「あい あむ ごーいんぐ なう! ゆー れすと ひあー いなーふ!」
と告げて食堂を後にしました。
こんなんで通じたかな?でも、東洋人も怒っちゃうことだけでも分ってもらえたでしょう。


最後の区間は、やはり最初に街中をぐるぐる回されます。
石畳が容赦なくおけつの傷口を攻撃します。
街中を抜けると絵に描いたようなひまわり畑の中の一本道、
でも、ひまわりはもうかれて終わっているし、舗装は荒れてガタガタだし、風は向かい風だし、吹きっさらしだし、
風景はとっても素敵でベルギーのレースでよく見る感じの雰囲気、
とっても古そうな町並みをつないでいるこの道は日本で言う旧街道って言うところでしょうか、
前方に一人参加者が見えますが、全く差が詰まりません。
逆に向かい風は向こうの方が速い感じで差が開いていくようです。
かなり有名な観光地のような長い石積みの塀に沿って進むと、公園の中に入ってきたようです。
舗装の状態もよくなって、そこそこのアップダウンが続きます。
長めの上りでやっと前走者を捕らえてしばらく併走することにしました。
この方、どうもこの辺を良く走っているようで、PBP参加者以外の自転車乗りとやたら会話したり、
私にも上りの長さを教えてくれたり、コーナーの先にパーべがあるからとスピードダウンをうながしてくれたりと、いい奴です。
乗ってる自転車もすごくって、フルカーボンフレームにハブダイナモ、ライトはヘッドチューブ内臓で、リムもカーボン、コンポはカンパ07、クランクはプルジョン、ブレーキは何とかって言う軽い奴、装備は小さなサドルバック一つ、
完全な軽量PBP使用です。
そういえば私の周りにいた参加者のカーボンホイール率はかなり高くって、多分5割以上カーボンホイールでした。


ゴールまで20kmを切ってもアップダウンが続きます。
再び長い石積みの塀の横に出て古い町並みを行きます。
途中止泊っているMaurepasのMercureホテルの看板を見つけたりして、
本当に帰ってきたことを実感できます。あと少し、あと少しなんだけどなかなか町に入りません、アップダウンばかりです。
残り15kmで一緒に走っていたフランス人が停車、誰かを待つみたいで「オールボアール!」といってくれました。
あと少し、もう少し久しぶりの大きなロータリーっと思ったら、ここ二日目に朝錬で走ったところ、本当にあと少しなんだ。
二連のロータリーも何か走ったよな〜、このロータリーを左に入れば埼玉の皆が泊っているホテル、
ホテルの看板を過ぎればあと5km!、長い直線の向こうに参加者が2人見えますが、信号でなかなか近づけません。
1200km、ずーっとなかった信号がとってももどかしい、かつての掛川600kmを思い出します。
(ラスト2kmで20以上信号に引っかかって、3人乗りのママチャリにおいていかれたことがあります)
やっと二人に追いつくと、その一人はカリスマIさん!
まさか彼と一緒にゴールに迎えるなんて…
でも、先頭と勝負をしてきた彼となんとなく完走を目指して走った私が一緒にゴールを迎えるのも、我ながら複雑な気持ち、
やってきたことは全く違うのに結果という数字でしか判断されないとしたら、それはとっても悲しすぎると思います。
でもIさんと一緒にゴールできるなんてぜったいにありえないと思っていましたから、ものすごく嬉しいです。


スタート時にくぐったゲートがロータリーの先に見えてきました。
たくさんの拍手の間に歩道に上がるスロープがあります。
迷うことなくそのスロープを上がるIさんに続いて私もゲートをくぐりました。
すぐに右手の遊歩道に入って体育館裏のグラウンドに到着、
1225km最後の儀式かな、両足のクリートをはずします。
5日前受付をしたときの超満員だった体育館は閑散としていますが、
最後のコントロールチェックに向かう足取りはとっても軽くて心地よかったです。


ゴール、サンカンタン(1225km)、63時間57分(午前11時57分到着)



ゴール後のお話、
ゴール後1時間半ほど前にゴールしたもう一人のカリスマIさんと3人で食事を取りました。
完走を祝ってのビール、はらわたに染み渡りました。
3人で買ってきた赤、白、ロゼのワイン(高かった!)も効きました。
でも、このシチュエーション、私にはまぶしすぎちゃってあまりお話できなかった気もします。
体育館に戻る途中でトイレ大にいきましたが大変なことになっていて、すごく苦労してしまいました。
詳しい話は直接聞いてください、とっても文章にはできません。
体育館に戻って2時間ほど寝てしまったようです。
目を覚ますとともに全身の筋肉が痙攣を始めて、膝を抱えるような格好であまりの苦しさに泣いていました。
しばらくして痙攣が治まってきた時に、ノルウェーの参加者とジャージ交換をしました。
後は写真を買って…
気がついたらすでに午後6時、
ホテルに向かって帰ることに、
お尻はもう使い物にならず、ホテルまで横のりで帰りました。
とってもかっこ悪かったと思います。


ホテルではゆっくりするまもなく、洗濯開始、
ドロップバックで脱いだウエアーはとんでもないことになっていました。
自転車梱包用の紐で洗濯物を干したとたん力尽きたみたいです。