BRM920宇都宮1000km三日目

team10802008-09-22

ガラス戸の外に張り付いていた大きなガが雨粒で叩き落されていく…
窓の外の光景が届くのはその辺まで、
その先はどうなっているのか分かりません。
多分、普通の街中なんだろうな…


ものすごい轟音とともに大型トラックが通過していきます。
えっ、トラックの姿が見えましたよ!!!


四時間ぶりに立ち上がって扉を開けると、
外は相変わらず激しい雨ですが道が見えないほどではありません。
進行方向にはスノーシェードと温度表示の電光板が『10℃』を示していました。
時間は02:40、再出発です。


お腹と背中に新聞紙を入れて、ニットの指つき手袋を指きりの下につけて、
ランチパックのタマゴサラダとピーナッツバターをほおばりながら走り始めます。


顔に当たる雨粒は相変わらずけっこう痛いし、すごく寒くってガタガタ体は震えていますが、
前方が見えるうれしさの方が勝っているみたいで、顔はニヤニヤしているみたいです。
路肩と轍は完全に水没しているので、センターライン付近しか走れるラインはありません、
どうせ貸切国道なので、後方から車のライトが来るまではこのままです、
で、結局車はきませんでしたよ。


途中で国道と並行する県道に入るのですが、
道が良くなくて修理した舗装の繋ぎ目が、痛んだお尻を攻撃してきます。
ずるして国道走っちゃえばよかったかな〜なんて思ったのがいけなかったのかな…
ちょっと下ったボトムの橋の段差を越えたとたん、バキッっていう音がして、
何かが膝に当たって、それは道を跳ねて橋の外の暗闇に消えてい来ました。


自転車を止めてハンドル周りを見ると…GPSがない!
GPSのハンドルアタッチメントにはGPS側のアタッチメントが残ったまま、
どうも本体とアタッチメントをつなぐねじが折れてしまったみたい、
たしかにィ、ねじの径細かったもんな〜、なんて感心している場合ですか!
後は下りで『108km/h』とか、平気で表示するメーター頼りのQシート走行するしかありませんよね、
ちゃんと直しておけば良かったなんて思ったって後の祭りです。
でも、不思議とポジティブな自分が他人みたい、
あ…フ○ダなんだ〜
「私はあなた方とは違うんです!」
ちなみにあなた方とは普段の自分のことです。


次のPCの間で最後になる駒止トンネルの上りに入ったとき、そいつは突然やってきました。
「きっ、気持ち悪い…吐きそう…なんであいつがこんなところに…」
PBPの900〜1000km地点で苦しめられたフランス独特の臭気に襲われたのです、
というか、フランス独特だと思っていた臭い、
ちょっとポプリみたいないい臭いみたいな気もするのですが、
呼気からなのか、汗なのか、それとも濡れた衣類からなのか、
あらゆるところからその臭いがする気がします。
PBPでは吐き続けて、脱水起こしかけていたんだよな、
あの時は羊羹攻撃で撃退したんだっけ、
と思い出して一口羊羹をかじりますが、ぜんぜんぜんぜ〜んダメ!
「すげ〜気持ち悪い、すっぱいのがきたら最後じゃ〜、すっぱいの来るな〜」
なんて、わめきながらPBPの記憶を掘り起こしながら原因を考えます、
あの時は6時間ぐらいで収まった、って言うことはやっぱり食べ物?
コントロールに入って突然気持ち悪くなったのだから、その前に食べた補給食…
えーと、たまごサンド(食い物の記憶は凄いぞ!)…たまごサンドさっき食べたじゃん!!!
と、言うことはブルベ中は卵を食べると変な臭気がして気持ち悪くなる、
うん、頭いいぞ、お前ノーベル賞いけるぞ!
でも、卵はブルベでいつも食べているぞ、卵入りの冷やし中華なんて4食行ったし、
って言うことは36時間以上自転車に乗り続けている時に卵を食べると臭気がやってくるってことか?
うん、けっこういい線かも、とりあえずは6時間後に臭いがなくなるかが大事だけれどな。
なんて、考えている間にトンネルを通過して下りに入っていました。
雨は相変わらずざーざーぶりで前は見えないし、とっても寒いし、
Fホイールはぐらぐら&カチカチカチカチうるさいのに、
考え事をしているから全然気にしていない、
気持ち悪いはずなのに気持ち悪いと思うすきまがない、
一つのことしか考えることが出来ないってことがいいことなのか、はたまた…


10km以上の下りを終えた先、会津田島のPC8(751.3km地点)には05:01に到着しました。
凄く気持ち悪いのですが、凄くお腹がすいていて、
すっぱいのは絶対に上がってこないと訳の分からない宣言をして、
ミートスパゲッティとしおヌードル行きました。
補給にはもう一回実験するために卵サンドを忍ばせておきます。
ボトルは全て水に変更です。


チェーンとFハブにたっぷりオイルをたらして、
白々夜が空け始めた街中に漕ぎ出して生きます。
雨はかなり落ち着いてきました、
気温も15℃ほどになっています。


走り出しは国道と平行している県道をしばらく走ります。
車は全然走っていませんけれど、アップダウンがかなりありインナーローに入ることもたびたび…
上る距離は短いのですが激っているところがぼちぼち出てきました。
そういえば今まで激坂って無かったかも、どちらかというとコンスタントに上がる道が多かったような…


温泉民宿がたびたび表れてきて雰囲気はいい道なんだけれど、ずる剥けた尻が痛みます。
再び国道に出て向かうは羽鳥湖、こちらもコンスタントに上がる道で走りやすいです。
トンネルを抜けてもなかなか下りにならなかったのがもどかしかったですが、
うまい具合に車が来ない間隙に下りに入れて楽ちんです。
802km地点で右折をすると以前走った事のある風景、勢至堂峠に向かう道だっけ?
さあ、ここからは初日に走ったコースの逆走なので、それなりに走れるだろう、
っと、30kmほど平らな道をるんるん走っていくと、なんか雰囲気が変、
だんだん人気の無い道に入ってきて、民家の脇を脇を曲がったところで目にしたものは、
壁のような激坂だ〜!(本当はそんなに凄くないかも知れない、そういう気分でしたということで)
ひいひい上っていくと今度は『ふるさと林道』だと〜!
川のように水が流れている林道、インナーローに入れっぱなし、
わずかに残っていた足の筋繊維がすぺて千切れましたよ、ほんと。
ついでにお尻も両側だけでなく、真ん中も切れてしまったみたい、
サドルに腰を下ろすときはそ〜っとしないとだめになってしまいましたし、
もう50回転以上のケイデンスは不可、下りも漕げなくなってきました。


林道が終わったと思ったら今度はトラックばんばんの国道の上り、
もう最初っから歩道走行ですよ、誰がなんて言ったって歩道!失格者と言うなら言ってくれ!
だって走るスピードが歩行者並みなんだもん、トラック怖いし、平日だし。


国道を離れると山里のつなぐ、のどかだけれど上りと下りだけの道、
千葉の富里-成田あたりの風景に似ていてほっとします。
あ〜、そろそろむかごの季節、また取りに行きたいな〜


小野インター近くのPC9(855km地点)は10:49到着でした。
激坂で忘れていましたが、例の臭気なくなっていました、もう全然平気です!
なのであじむすび三点セットとお腹のためにピルクル行きました。
ずっと飲み忘れていたBCAAも取っときます。
補給はランチパックのいちごクリーム&カスタード、ボトルは水オンリーです。


さて、ここからは往路で走った道です。
でも、記憶と全く違う…
全ての上り坂が急に見えてしまいます。
それと風景がどこも似ていて、山間部の黄金色の稲がたなびく狭い田と小さな川と高速道路の橋脚の三点セット、
同じところをぐるぐる回ってる気がして、GPSを失った身としては不安がいっぱいです。


走り始めて1時間ほどで、禁断の卵サンドを口にしました。
全部飲み込んで数分で臭気が来ましたよ、
うわ〜、気持ち悪い〜
やっぱり原因は卵なんだ、卵に決定!
これから600kmを越えたら卵は禁止食品とする。


国道はやはりトラックが多く上りは歩道走行で逃げます、
でも抜き際にハザードを出してくれるトラックも複数いて凄くうれしいです。


だいぶ街中に入ってきました。
中国道から離れて交通量の少ない道を走らせてくれるAJ宇都宮の配慮もうれしいです。
皆さんに感謝感謝の走行でございます。


ふと気づくと、雨が上がっています、雲が切れています。


入り口がとんでもなく遠くにあってすご〜く損した気分になりながら、
塙のPC10(913.6km)に到着したのは13:44でした。


やっと暖かくなってきたので、
雨合羽とアームウォーマー、レッグウォーマー、シューズカバー、指つき手袋はバックの中に収納、
残りは90km、補給も順調に取っていたし、気持ちが悪いのが続いているので、
ゼリーを食べて、ボトルに水を詰めるだけです。


さあ最後の区間です。
ところが、走り出してすぐにメーターが停止、
メーターをはずしてブラケットの水分をふき取ってみると、めでたく回復、
良かった、良かった。


ここからは宇都宮400kmと同じコース、
あの時と比べようの無いくらい交通量は多いですが、走りにくさはありません。
淡々と距離をこなして馬頭町を通過、八溝グリーンラインに入ります。
ここも何度も走っていますが、こんなに上っていたっけ…
後ろにトラックがついても避けるところが無いのでそのまま、ごめんね〜邪魔しちゃって、
お尻はすでに限界を超えてしまって、
上りはダンシングオンリー、下りはほとんどペダルが踏めません。
日が徐々に傾いてきて、木陰に入ると視力が凄く落ちているのが分かります、
何とか日が暮れる前にゴールしなければ…


グリーンラインが終わって残り10kmの上横倉町の信号で本部に到着間近の電話を入れ、
久しぶりにスタッフの声を聞くと元気百倍!
全てを忘れて爆走モード、
最後の鶴カントリーの上りは前輪が左右に振れ出して
ブレーキシューに当たりっぱなしでしたが、お構いなし、
サイクリングターミナル前のテントが見えたとき、
初めて完走できる事を確信できました。


17:46ゴール、日は山陰に隠れようとしていました。
時間にして52時間46分、上出来です。


スタッフのチェックを受けて、味噌汁とコーヒーをご馳走になってしばらく談笑、
気づくとあたりは真っ暗になっていました。


とりあえず車に戻って着替えることにしました。
もう、サドルに腰をかけることは出来ません、
前輪は何もしなくてもブレーキがかかっています。
よく最後までがんばったね、ありがとう…


車のところで着替えて、入り口のコンビニに買い出し、
コンビニの駐車場で焼きそばパンをほおばったところで事切れたみたいです。
パンを吸い込みそうになって目を覚ましたのはそれから一時間後?見たいです。


一時間口の中にあったパンをかみ締めながら、思ったこと…
本当に寝ないで1000kmは走れちゃった…
フランス人の言っていたことは本当だったのかな???
(まだ、疑っている)
でも、寝ないで走る、大きな休みを取らないで走り続けることは、
肉体的にもかなりの負担をかけることも分かってきました。
特に体が自転車と接している部分、
手のひら、お尻、足の裏のストレスは今までに経験したことの無いほどきついものでした。
その辺の対策も考えていかなくては、
何せ体力は落ちてゆく一方なのですから。


午後9時過ぎにゴールに戻りました。
するとサイクリングターミナルのお風呂が今なら使えるようなので、
ゆっくり温まることにさせていただきました。
湯船につかるとスキーの後のように体がじんじんしびれてきます。
かなり冷えていたんだな〜、
あの只見は本当に危なかったかも、
死神さん、立ち止まらずに通り過ぎてくれてありがとう。


午後10時半ごろ、H原さんがゴール、
ミニベロに乗った方で、
体力も精神力も決意も私のはるか高みをいっていそうな方、
ずっと続けて欲しいと思いました。
こういう方やスピードのある方がうまく引っ張り合えば、
三年後のPBPは日本人が先頭集団に残ってブレストを折り返すことが出来るのだろうに…
ま、人のことはとやかく言うのはよしましょうかね、
AJは力を出し合って高みを目指すことをしない集団、
やりたいことがあれば勝手にやればいいのだし、
私が口を挟むことではないでしょうし、


結局4時間近くスタッフの皆さんとお話していて、
やっぱり走っていることがみんな好きなんだな〜って、改めて思いました。
時々、道を敵のようにして戦っているような人も見受けるけれど、
きっと彼らも道を走ることが好きになる、
ブルベにはそんな力があると信じています。


最後に、三日以上にわたるこのイベントを開催し、
さらに開催直前まで参加者の安全のために奔走されたAJ宇都宮の皆さん、
皆さんのおかげで、私は道の上を走り続けることが今まで以上に大好きになりました。
どうもありがとうございました。